S1000RRの電子制御

近年のバイクは至るところに電子制御が施され、とりわけリッタークラスのSSには欠かすことのできない要素になっていると言われています。S1000RR(K67)も例に漏れず電子制御がフル装備されており、ナラシを終えて半年ほど乗り込んでみたところそれらの恩恵と重要性を強く感じるに至りました。そこで今回はS1000RRの電子制御について実走したインプレッションを記したいと思います。

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なおここでは通常の走行モード(RAIN/ROAD/DYNAMIC/RACE)ではなく、RACE PROモードにおける各パラメーターの調整について取り上げます。走行シーンはサーキットを想定しています。

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また僕の車両はアナログサス仕様(DDC無し)ですので、電子制御サスペンション(DDC)については触れません。

 

 

エンジン

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エンジンのトルク特性とスロットルレスポンスを変更することができます。

 

「1」・・・鋭いレスポンス。トルクは最大。

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「2」・・・鋭いレスポンス。トルクは低速ギアで低減。

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「3」・・・ソフトなレスポンス。トルクは最大。

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「4」・・・ソフトなレスポンス。トルクは低速ギアで低減。

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サーキットでは「1」が基本ですが、S1000RRの加速力に慣れないうちは少しハードに感じます。
「2」は開け始めのレスポンスは鋭くて、1・2速(3速も?)で高回転の伸びが抑えられる中途半端な設定。イマイチ使いどころが分かりませんが案外公道向きかも。
「3」は開け始めのレスポンスがソフトなので立ち上がりでアクセルを開けやすく、アクセルを開け切った時は最大限の加速を行います。マシンに慣れないうちはこのモードが良いと思います。

 

 

エンジンブレーキ

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エンジンブレーキの効力を変更。地味な制御に思えますが、実は走りに与える影響が大きい箇所です。


「1」・・・エンジンブレーキの効きは最小。

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アクセルオフした時にエンブレが効かずスーッと空走していく感じで、他のバイクから乗り換えると違和感があります。エンブレだけで速度調節していた区間でフロントブレーキを握る必要が出てくるなど、走りのリズムが変わります。
このモードのメリットとしては、

  • 速度調節においてエンブレの影響が少なく、ブレーキ操作のみで自分のイメージ通りの減速がしやすい。
  • アクセルオン・オフを繰り返すシチュエーションで意図せずマシンが失速することを防げる。

後者については、例えばオートポリスの後半テクニカルセクションのように微妙なアクセルワークとともにコーナーリング・切り返しを行う場面で、必要以上にマシンが減速してしまうミスを減らすことができます。
僕の場合はこれらのメリットから、現在はモード「1」を選択しています。

 

「2」・・・エンジンブレーキの効きは中程度。

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いわゆる普通の効き方で、他のバイクから乗り換えた時に違和感のない特性です。まずはこのモードから試して、S1000RRに慣れてきたら徐々に他のモードを選択するのが良いのではないでしょうか。

 

「3」・・・エンジンブレーキの効きは最大。

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最もエンブレが効く設定です。
「1」~「3」でどれが良い・正しいというものではなく、自分の走り方、リズムに合うモードを選べばよいと思います。僕は「1」が自分の走りに合うと感じますし、エンブレを強く効かせて走りたい人は「3」を選ぶことでしょう。

 

 

トラクションコントロール(DTC)

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トラクションコントロールの介入度合いを調節。
「1」~「4」まであり、1<2<3<4の順で介入の度合いが増します。ドライのサーキットでは「1」の一択です。

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トラコンはさらにメーター内の「DTC」表示にて-7~7(標準は0、数字が大きいほど介入が増す)の15段階で微調整できます。

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標準の0でも介入度合いは多めで、マシンに慣れてきたら-3以下が常用となる印象です。

 

 

S1000RRのトラクションコントロールについて
サーキットでは頻繁に作動しているのですが、走っている最中はそのことに全く気づかないほど自然な介入です。ただし万能ではなくコーナー立ち上がりでマシンがまだ起き上がっていない状態のままガバ開けすると、リアはあっさり滑ります。
「立ち上がりの加速はまずジワリとアクセルを開けてチェーンのたるみを取り、後輪に駆動が掛かった状態になってから大きく開ける」という基本操作をおろそかにすると、電子制御で完全武装されたS1000RRといえどあっけなく転倒・ハイサイドに至る可能性があると思います。
その代わり一旦リアにトラクションが掛かり始めるとDTCはきっちり仕事をしてくれるようです。僕はまだマシンを完全に信じ切れずアクセルを開けられない場面が多いので、もっと電子制御を信じて割り切ったライディングが必要なのかもしれません。怖いけど…。

 

 

ウィリー制御

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オフ・・・ウィリー制御なし。

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「1」・・・最小限の介入で高いウィリーが可能。

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「2」・・・軽いウィリーが可能、駆動力は最適。

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「3」・・・最大限の安定性。

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僕の場合は「2」に固定しています。立ち上がりの加速でフロントが自然に浮いてきますが、一定の高さまで来ると(感覚的には数cmくらい?)それ以上は上がりません。この「これ以上は絶対フロントアップしない」という安心感が立ち上がりで躊躇なくアクセルを全開にできる原動力となります。
しかし走行動画で振り返ってみると、フロントが浮き上がってくるのと同時に加速が鈍る瞬間があり、おそらくウィリー制御によってエンジンの回転上昇が抑えられているのではないかと思います。これを解消するにはモード「1」(もしくはオフ)にして介入を最小限にする必要がありますが、その場合は高々とウィリーしてしまうリスクを負いつつ、フロントアップを抑える身体の使い方やリアブレーキのテクニックも求められるようになるかもしれません。

 

 

ABS

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前後ブレーキの制御を行います。


「1」・・・フロントABSは最小、リアABSはオフ。インテグラルブレーキ(フロントのブレーキレバーを握ると、リアブレーキも連動して作動する)リアの配分は最小。アンチリヤリフトはオフ。ABS Pro(コーナーリング中にフロントブレーキを掛けてもマシンが起き上がりにくい)はオフ。

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「2」・・・フロントABSは最小、リアABSは最小。インテグラルブレーキは最小。アンチリヤリフトはオフ。ABS Proはオフ。

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「3」・・・フロントABSは中間、リアABSは中間。インテグラルブレーキは中間。アンチリヤリフトは最小。ABS Proは最小。

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「4」・・・フロントABSは最大、リアABSは最大。インテグラルブレーキは最大。アンチリヤリフトは中間。ABS Proは中間。

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「5」・・・全ての制御が最大。

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ABSは完全にオフにすることも可能ですが、僕の場合サーキットでも「2」に設定しています。S1000RRのブレーキシステムはノーマルでも効力に不足はなく、しっかりとリアを浮かせる程度に強くブレーキを掛けることができます。その状態でもABSが作動している気配はありません。あるいは作動しているのかもしれませんが、ブレーキレバーのキックバックや空走区間の発生といったABS特有の挙動を感じ取ったことは一度もなく、乗り手に違和感を与えない制御を行っている印象です。

 

 

クイックシフター
アップ側・ダウン側の両方に対応し、ノークラッチでシフト操作を行うことができます。ダウン側は少し引っ掛かるようなシフトタッチで、スポーツ走行の高負荷時にはアクセルを確実に全閉にしないと作動しないことがある点に注意です。
アップ側・ダウン側ともにシフトショックが少なく一瞬で変速するため、ライディングの大きな助けとなるしタイム的にも確実に恩恵があります。ダウン側はバックトルクの変動が起きにくくなるため、ブレーキでリアが安定する点も大きなメリットです。

 

 

ピットレーンリミッター
1速走行時にセルスイッチを押しながらアクセルを全開にすると、あらかじめ設定した回転数を維持します。速度制限のあるピットレーンを通過する際に便利です。
回転数を5,300rpmに設定すると59~60km/hになります。

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ローンチコントロール
停止した状態でセルスイッチを押したままアクセルを全開にすると9,000rpmで固定され、クラッチを繋ぐとウィリーを抑えながら最大限の効率で加速するとのことです。僕はまだこの機能を試しておらず未評価です。

 


まとめ
以上のようにS1000RRは様々な電子制御が備わっており、そのいずれも走行中には作動していると気づかないほど自然な介入で、それでいてモードを変更すると違いが明らかに体感できる完成度の高さです。
207psという途方もない出力を誇るエンジンは荒々しいフィーリングを秘めていて、各種制御がない素の状態ではとてもシロウトが手に負える代物ではないと感じます。それが、曲がりなりにもフロントを浮かせながら全開でコーナーを立ち上がるなんて芸当を僕のレベルでもできてしまうわけですから、もはや電子制御抜きでこのマシンを語ることは出来ません。僕がもし一昔前、電子制御の黎明期にこのカテゴリーのマシンに乗っていたら、これほど乗りこなすことなど到底できなかったでしょう。
S1000RRは扱いやすい車体や強烈なエンジンパワーという、バイクとしての骨格や筋肉が優れているだけでなく、それらを司る中枢の神経(電子制御)が洗練されているために、誰もが乗りやすさと速さを両立して楽しめる一台に仕上がっているのだと思います。